海上技術安全研究所様

四方を海に囲まれた日本では、海の恵みである海洋再生可能エネルギーを有効利用することが今後の持続可能な発展に不可欠です。その中で、波エネルギーは地域偏在性の少ない海洋再生可能エネルギーのため、離島や分散型エネルギーニーズを持つ地域の代替電源、洋上で稼働する様々な機材に対する電源としての利用が期待されています。しかし、洋上風力発電など他の海洋再生可能エネルギーに比べて、波エネルギーから電力を取り出すための波力発電は技術的に成熟していません。技術的な課題には、運転上の安全性の確保、エネルギー吸収の高効率化、コスト削減策などの課題に取り組む必要があります。その課題の一つであるエネルギー吸収の高効率化を達成するには、波力発電の運動を制御することが有効とされており、国内外で精力的に研究されています。しかし、波力発電で用いられる従来の制御法では、エネルギー吸収の可動範囲や最大出力などの物理的な制約条件を考慮していません。そのため、波高が大きい条件で動作できずエネルギー吸収効率の低下、もしくは、安全性や安定性を確保して動作するために過剰な設備が必要となり、設備コスト増加につながります。
近年では、運転上の安全性を確保しながら高効率なエネルギー吸収をするために、物理的な制約条件を考慮しながら発電量を最大化する効果的な制御法を開発することが期待されています。海上技術安全研究所の再生エネルギー研究グループでは、波力発電の実現に向けて、効果的な波力発電の制御法の開発を行いながら、数値シミュレーションおよび水槽実験による制御適用下の波力発電の発電性能評価や安全性評価技術の開発を行っています。
Purpose
ポイントアブソーバ型波力発電装置は、海面に設置された浮体が波の上下運動によって生じる運動エネルギーを発電機へと伝達して発電します。この発電形式は日本の波状況、占有する海域面積や装置の耐久性の点から我が国の海域に適した形式の1つと考えられます。当研究グループでは、リニアモータを応用したリニア発電機を搭載したポイントアブソーバ型波力発電装置を対象として、物理的制約条件を考慮して発電量を最大化できる制御法を開発しています。数値シミュレーションによる有効性の検証だけでなく、実際に水槽実験で開発した制御法が有効であるかを示すことは非常に重要です。
MIS Solution
永久磁石同期型のリニア発電機を採用した波力発電装置の約1/20縮尺の模型を用いて、開発した制御法の検証を行いました。水槽実験模型の内部にはリニア発電機を模擬するためにリニアシャフトモータが収納されています。リニアシャフトモータは電機子と永久磁石が積層されたシャフトを持ち、シャフトは電機子を貫通しています。シャフトと浮体は結合しており、波力を受けて上下に動く浮体に合わせてシャフトが電機子を移動することで電流が発生し、発電します。このとき、電機子に流れる電流をリニアシャフトモータに接続したサーボアンプで制御することで、定格推力内の任意の推力を発生させることが可能です。この推力を波力発電の最適制御法に基づいて可動浮体の運動を大きくし、波から吸収するエネルギーを増加することができます。
開発した制御法の数値シミュレーションによる検証はMATLAB®/Simulink®で行っております。一方で、制御法を含む制御アルゴリズムを水槽実験用模型へ実装するためには、MATLAB®/Simulink®で開発した制御アルゴリズムを別の開発環境に変換する必要があり、必ずしも互換性が保たれているわけでありません。そのため、制御アルゴリズムを修正した場合、再実装までの工数がかかっていました。また、制御アルゴリズムの内部変数と波高計などのその他の計測機器を同期して計測するには、すべてを外部信号に出力して、データロガーで収録する必要がありました。そこで,Speedgoatを採用することで、一連の処理を行う制御アルゴリズムをMATLAB®/Simulink®で作成し、シームレスに実装できるPerformance real-time target machineで実行、データインスペクターを利用してリアルタイムに結果を確認しつつ、開発した波力発電の制御法を検証しました。
Goal
これまでにMATLAB®/Simulink®で開発した波力発電の制御法を水槽実験で検証することができました。また、外部信号も同時に取得できるため、制御アルゴリズムの内部変数との同期も非常に容易であり、制御アルゴリズムのパラメータ調整も容易でした。MATLAB®/Simulink®で開発した制御アルゴリズムを修正してもすぐに実装できるメリットを生かし、今後は波力発電以外に洋上風力発電などの制御法の水槽実験での検証とデータ収録に導入することを検討しています。
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